人類は感染症を克服した?
日本人のかつての死因は感染症でしたが、抗菌剤の開発や衛生意識の向上で、近年は減少していることを先日の記事で記載しました。
人類は感染症を克服したのでしょうか?
2015年の統計では、世界中で悪性新生物(がん)でなくなる人は約800万人います。一方、感染症で亡くなる人は約70万人と言われています。
しかし、約30年後の2050年には1,000万人が感染症で死亡する可能性が指摘されているんです!

薬が効かない菌が増殖中!
AMRという言葉があります。
AntiMicrobial Resistance
「薬剤耐性」という意味です。
薬剤耐性とは細菌が抗菌薬に対し耐性(抵抗性)を獲得することによって、抗菌薬が効かなくなることを意味しています。
そのような細菌を「薬剤耐性菌」と言います。
色々な抗菌剤が開発されていますが、同時に、それぞれの薬剤に対する耐性菌も年々増加しているんです。
なぜ耐性菌が出現するのか
「進化」とは突然変異の繰り返しによって起こります。薬剤耐性化も細菌の進化の一つと考えて良いでしょう。
通常、抗菌薬が効果を発揮するには、次の条件が必要になります。
抗菌薬の適正使用
- ターゲットになるの細菌に対し確実な効果(感受性)があること。
- 適切な投与量を使用すること。
- 適切な投与期間のみ使用すること。
ある程度の効力がある抗菌薬でも、中途半端な量をだらだらと使い続けると、ある日、細菌に「突然変異」が起こり、耐性という能力を獲得します。
耐性のない細菌は減少しますが、耐性菌は薬が効かないため増殖し、やがてはすべて耐性菌に置き換わってしまいます。
その証拠に、抗菌薬の種類別の使用量と耐性菌の発現との間に、正の相関があることが認められています。
代表的な薬剤耐性菌
代表的な薬剤耐性菌の略語と名称については下記の通りです。
ESBL | 基質拡張型βラクラマーゼ産生菌 |
PRSP | ペニシリン耐性肺炎球菌 |
MRSA | メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 |
MDRP | 薬剤耐性緑膿菌 |
CRE | カルバペネム耐性腸内細菌科細菌 |
MDRA | 薬剤耐性アシネトバクター |
VRSA | バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌 |
VRE | バンコマイシン耐性腸球菌 |
例えば、バンコマイシンは元々MRSAという耐性菌に効果が有る抗菌薬として開発されましたが、更にバンコマイシンに対してもVRSAやVREという耐性菌が出現してしまいました。

2002年のバンコマイシンの使用量は下記の通りです。
日本 2.7トン
米国 19.5トン
医療機関でのVREの分離率は日本では1%ですが、米国ではなんと79%という状況です。
MRSAによる血液感染症である「MRSA敗血症」の死亡率は、バンコマイシンが比較的効果がある群(MIC:1μg/mL以下)では19.5%ですが、バンコマイシンが効きにくい群(MIC:2μg/mL)では65.8%とのデータもあります。
MIC:minimum inhibitory concentration
(最小発育阻止濃度)
国を挙げて、抗菌薬の使用量を抑える努力を行っているところです。

