アスピリンについて
アスピリンは古くからある医薬品成分です。「アスピリン」はもともと商品名で、成分名はアセチルサリチル酸といいますが、日本薬局方では「アスピリン」が正式名称になっています。19世紀にヤナギ(柳)の木から成分が分離されています。ヤナギの鎮痛作用は紀元前から知られていた様です。
アスピリンの作用と効果
アスピリンには鎮痛作用と血小板凝集抑制作用があります。特に血液の凝固能を抑制する抗血小板剤として81~100mgと低容量が使用され、血栓により引き起こされる脳梗塞や心筋梗塞の予防的治療に重要な医薬品なのです。
アスピリンの副作用
胃の血流量を維持するプロスタグランディンという物質の合成を阻害するため、胃の防御因子である胃粘膜の量を減少させ、胃潰瘍や食道潰瘍につながることがあります。また、血液の凝固能を抑制するため、血が固まりにくくなり、出血傾向となります。
アスピリンのがんに対するエビデンス
最近、アスピリンのがんに対するエビデンスが明らかとなってきました。
13万人を超える米国人を対象とした大規模研究より
低用量アスピリンを定期的に服用している成人では、服用していない人に比べて数十年以内のがんによる死亡率が女性で7%、男性では15%低いことが示され、アスピリンの定期的な服用者では大腸がん、乳がん、前立腺がん、肺がん(男性)による死亡リスクが低減したとの研究結果があります。
米国予防医療作業部会(USPSTF)による勧告
50-60歳代の成人に「10年以内の心血管疾患リスクが10%以上、かつ出血リスクが低く、期待余命が10年以上かつ10年以上にわたり1日1回の低用量アスピリンを継続する意思のある成人」に対し、心血管疾患および大腸癌の一次予防のための同薬使用が推奨されました。
米国の医療従事者13万人強を対象にした追跡データより
アスピリンを服用していた人では服用していない人に比べて、全死亡率が女性7%、男性11%減少したとのことです。その中で、がんによる死亡率は女性7%、男性15%で低下していることが示されたとのことです。最も効果が大きかったがんは、大腸がん(女性31%、男性30%の減少)、乳がん(女性11%)、前立腺がん(男性23%)、肺がん(男性14%)において、死亡率の減少が認められたとのことです。
米国癌学会の掲載論より
膵癌群の11%、対照群の18%がアスピリンを常用していた。BMI、喫煙歴、糖尿病の既往などの他の因子を調整し、再度解析を行ったところ、アスピリン常用歴のある人はそうでない人に比べ膵癌リスクが46%減少しているとの結果であった、とのことです。
米国癌協会(ACS)による報告
低用量アスピリンの長期服用により、大腸癌の発症リスクが約40%低下するとのエビデンスが確定しているそうです。リスクの低下は短期間の服用では現れず、数年にわたる服用が必要とのこと。また、食道癌と胃癌についてアスピリンによるリスク低下を示す強力なエビデンスがあるほか、乳癌、前立腺癌、卵巣癌などのリスクが10-20%低下することを示唆する報告もあるようです。
アスピリンでポリープ抑制?
国立がん研究センターと京都府立医大による試験に全国の19施設が参加。大腸がんの予防でポリープを切除した患者を2グループに分け、片方に2年間毎日100ミリグラムのアスピリンを投与し、もう片方に偽薬を投与した結果、アスピリンを投与したグループでは、偽薬のグループに比べ、大腸ポリープが再発するリスクが4割減少。非喫煙者に限ると6割以上減り、喫煙者では効果がないことが分かった、との報告があります。
エビデンス情報の取り扱いについて!


上記は可能性を示すエビデンスであって、効果を確定するものではないことに留意をする必要があります。また、アスピリン服用による消化管出血や出血性脳卒中などのリスクの大きさも重要です。今後の研究結果が待たれるところです。