腸内細菌叢
人の腸に生息している腸内細菌は100兆個とも1000兆個とも言われています。種類も3000種類ほどあるとのことです。
通常、常在菌として存在し、花畑をイメージして「腸内フローラ」と呼ばれることもあります。
ちなみに[Flora]はローマ神話に登場する女神です。
生態系として「腸内細菌叢」とも呼ばれます。
腸内細菌の働き
腸内環境
腸内には1,000種類以上
100,000,000,000,000~1,000,000,000,000,000個
の腸内細菌が存在しています。
腸内環境を整えて下痢、あるいは便秘の症状を改善し、機能の適正化を行います。
免疫力
病原菌の増殖を抑制し、排除を促進することで、免疫力を高める効果が得られます。
また、ある腸内細菌はヘルパーT細胞や制御系T細胞と言われる免疫細胞の分化維持(数を増やし活性化させるイメージ)に貢献します。
IgAという抗体が腸内細菌の維持や排除に関わっていることも解ってきました。
ビタミンの合成
ヒトが生合成できないビタミン類の合成を行います。主にビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンKなどが合成されるということです。
神経伝達物質の合成
神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンの前駆物質を合成します。これらの神経伝達物質は「喜び、快楽、興奮、やる気」などを脳に伝達する「幸せ物質」と呼ばれています。不足することで、不安を抱えたり、うつ病の発症に結びつくことが有ります。
腸内細菌が作る「D-アミノ酸」
タンパク質を摂取すると消化され、体内でアミノ酸に分解されます。得られたアミノ酸は「L-アミノ酸」です。「L-アミノ酸」はタンパク質合成の原料となります。
一方、「L-アミノ酸」の光学異性体に「D-アミノ酸」があります。「D-アミノ酸」はタンパク質合成の原料とはなりません。またヒトの生体内で造ることもできません。
金沢大学の研究において、腸内細菌により様々な「D-アミノ酸」が作られていることがわかりました。中でもD-セリンが腎障害が軽減することが分かり、D-セリンに腎臓の保護作用があることが明らかとなりました。
腸内フローラ
善玉菌:身体に良い働きをする、いわゆる「善玉菌」。善玉菌は「プロバイオティクス」とも呼ばれます。 | |
乳酸菌 | |
(乳酸桿菌) | |
ラクトバチルス・デルブリュッキー 亜種 ブルガリカス | 整腸作用、免疫作用が有ります。チーズ、はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ラクトバチルス ・ヘルベティクス | チーズ、はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ラクトバチルス ・アシドフィルス | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ラクトバチルス・カゼイ | 酸性に強く胃酸で死滅せず、腸まで移行します。はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ラクトバチルス・ガセリ | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ラクトバチルス・ プランタルム | 漬物に含まれる乳酸菌。さわやかな酸っぱさはこの菌が作ります。はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ラクトバチルス・ラムノサス | 整腸作用がある代表的な乳酸菌 |
ラクトバチルス・ ブレビス | 発酵食品に含まれる乳酸菌。はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ラクトバチルス ・ブフネリ | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
(乳酸球菌) | |
ラクトコックス ラクチス 亜種 ラクチス | バター、チーズ、はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ラクトコックス ラクチス 亜種 クレモリス | バター、チーズ、はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ストレプトコックス サーモフィルス | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ストレプトコックス フェシウム | チーズ、はっ酵乳 |
ペディオコッカス ペントサセウス | 酸性や塩分に強い乳酸菌 |
(ロイコノストック) | |
ロイコノストック メセンテロイデス 亜種 クレモリス | バター、チーズ、はっ酵乳 |
(ビフィズス菌) | |
ビフィドバクテリウム ビフィダム | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ビフィドバクテリウム ロンガム | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ビフィドバクテリウム ブレーベ | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ビフィドバクテリウム インファンテス | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ビフィドバクテリウム アドレッセンティス | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
ビフィドバクテリウム アニマリス 亜種 ラクティス | はっ酵乳、乳酸菌飲料 |
悪玉菌:身体に悪い影響を及ぼす、いわゆる「悪玉菌」 | |
クロストリジウム パーフリンゲンス(ウェルシュ菌) | タンパク質を腐敗させ、有害物質を生成。毒素を産生、細胞破壊、腸炎、食中毒の発症など |
クロストリジウム ディフィシル | 抗菌薬等で正常細菌叢が破壊されると、増殖し下痢や偽膜性腸炎を発症。 |
黄色ブドウ球菌 | 毒素エンテロトキシンを産生。耐性菌はMRSA感染症を発症 |
ベイロネラ パルブラ | 腸管や口腔内に存在 |
大腸菌(有毒) | O111やO157は毒素を産生し食中毒を発症 |
日和見菌:「善玉菌」でも「悪玉菌」でもなく、優勢な方に同調する「日和見菌」 | |
バクテロイデス(後述) | 口腔内や腸内細菌として大量に存在 |
大腸菌(無毒) | ヒトの大腸に存在する |
連鎖球菌 | 溶血性を示す |
バクテロイデスと認知症リスクとの関連性
国立長寿研究センター、久留米大、東北大等のチーム研究では、バクテロイデスが腸内細菌の3割超を占めるグループでは、認知症が発症していない人が多く、認知症発症リスクが1/10であると見積もられた、とのことです。
逆に認知症の人はバクテロイデスが少ないことが判明しました。また、バクテロイデスが少なく、種類のわからない細菌が多い人の認知症発症リスクは18.5倍に上がることも示されました。
論文は英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(電子版)」に掲載されました。
含イヌリンの食物繊維はバクテロイデスを増やす
ゴボウやチコリの根に含まれるイヌリンという水溶性食物繊維を腸内細菌がエサすると、バクテロイデスという分類に入る「やせ菌」が増えます。高脂肪食やカロリーの摂り過ぎは、ファーミキューテスという分類に入る「肥満菌」を増やしてしまいます。

食物繊維についてはこちらを。
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がん予防の可能性も秘めた食物繊維の力
食物繊維の効果 食物繊維は消化吸収されずに消化管を流れていくので、一見栄養学的にも役に立っていないように見えます。 ところが、食物繊維を摂取することで、ヒトは多くの恩恵を受けることができます。 &nb ...
「やせ菌」についてはこちらも。
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痩せ菌の正体、アッカーマンシア ムシニフィラで痩せる体質に
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プロバイオティクスとは
プロバイオティクスとは「十分な量が投与された場合、宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義され、乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌などがこれに当たります。
プレバイオティクスとは
有益な微生物の成長や活動を誘発する食品に含まれる化合物のことをプレバイオティクスと言います。
オリゴ糖類や抵抗性デンプン、食物繊維類などが挙げられます。
プレバイオティクスの定義は「大腸に常在する有用菌を増殖させるか、あるいは有害な細菌の増殖を抑制することで宿主に有益な効果をもたらす難消化性食品成分」です。
オリゴ糖は3糖類であり、経口摂取で大腸まで到達します。腸内細菌の栄養源となり、腸内フローラが改善し腸内環境が改善されます。
フラクトオリゴ糖(ゴボウや玉ねぎ、にんにくなど)
ガラクトオリゴ糖(牛乳などの乳製品)
大豆オリゴ糖(大豆や豆乳、味噌など)
イソマルトオリゴ糖(はちみつなど)
乳果オリゴ糖
キシロオリゴ糖
ラフィノース、ラクツロース、コーヒー豆マンノオリゴ糖、グルコン酸 等
乳酸菌やビフィズス菌等の増殖促進作用、整腸作用、ミネラル吸収促進作用、炎症性疾患の予防・改善作用などの有益性が有ります。

