新型コロナウイルス「COVID-19」は世界中に伝播しパンデミック宣言がなされました。
特に免疫力の弱い人々や合併症を有する人々を中心に肺炎の悪化等による死亡例が増加しており、治療薬やワクチンの開発が急がれています。
既存の医薬品の幾つかに治療効果が示唆されるデータが見つかり始めてきました。
COVID-19に有効と推定されている医薬品
ファビピラビル(アビガン)
ファビピラビル「アビガン」は新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症の適応で富士フイルム富山化学が開発した医薬品です。
ウイルスの細胞内でRNAポリメラーゼを選択的に阻害することで、遺伝子の複製を阻害することによりウイルス増殖を防ぎます。
エボラ出血熱にも効果が示されたことで話題の医薬品です。
しかしリスクとして、動物実験で催奇形性が確認されていることから、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与禁忌となっています。
また、精液中へ移行することから、男性患者に対しても投与期間中から投与終了後7日間までは性交渉を控えるか、有効な避妊法の実施の徹底が要求されます。
この催奇形性の問題もあり、新型の鳥インフルエンザウイルス等が蔓延した場合の切り札として、政府が備蓄している医薬品です。
現在、新型コロナウイルスへの有効性の確認のための臨床試験が実施されています。
1,600mg(200mg錠4錠を1日2回)(Day2以降)
10~14日間
バロキサビル(ゾフルーザ)
バロキサビルは塩野義製薬から商品名「ゾフルーザ」として製造販売されている抗インフルエンザ薬で、1回の投与で完遂できる点で利便性の高い治療薬として脚光を浴びました。
しかし、耐性菌の増加が臨床試験段階から認められ、慎重な薬物選択が求められている医薬品です。
新型コロナウイルスへの有効性は未知数ですが、投与例が報告されています。
シクレソニド(オルベスコ)
シクレソニドは帝人ファーマから「オルベスコ」の商品名で製造販売されている喘息治療吸入薬です。
成分はステロイドホルモンで、抗アレルギー作用、抗炎症作用により喘息の症状を改善する医薬品ですが、抗ウイルス作用を有することが知られています。
新型コロナウイルス感染症に対する症例報告により著名な改善が報告されており、現在臨床試験が行われています。
最長14日間投与
ヒドロキシクロロキン(プラニケル)
ヒドロキシクロロキンは仏サノフィから「プラニケル」の商品名で製造販売されている皮膚及び全身性エリテマトーデス治療薬です。
新型コロナウイルス感染透析患者への投与で著名改善した1例報告があり、話題になりました。
副作用の発生に関する注意喚起がされています。
QT間隔延長、トルサード・ド・ポアント、失神、心停止、突然死等の報告が有ります。
14日間
ナファモスタット(フサン)
ナファモスタットは膵炎や汎発性血管内血液凝固症(DIC)の治療薬です。
新型コロナウイルスが宿主の細胞内入り込む際に働くタンパク分解酵素を強力に阻害する作用があることが東京大学の研究グループにより見出されました。
同様の作用がカモスタットでも示されていることがドイツの研究グループより発表されていますが、ナファモスタットの方がより低濃度で効果があるとのことです。
レムデシビル(ベクルリー)
レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として開発された抗ウイルス薬です。
レムデシビルの作用はRNAポリメラーゼの阻害であり、同じコロナウイルスであるMERSに対して有効性が示されたとの報告が有ります。
重症患者の68%に有効とのデータが発表されました。
2020年5月7日に特例承認されました。
ベクルリー点滴静注液100mg、同点滴静注用100mg
(ギリアド・サイエンシズ)
100mg1回(Day2以降)
10日間
ギリアド・サイエンシズによる臨床試験の結果、5日間投与例においても10日間投与と同程度の有効性が示されたとの報告が有ります。
評価は、「退院」「人工呼吸器・ECMOの必要性」「死亡」等、7つの指標で行われています。
クロロキン
ヒドロキシクロロキンの類似物質で抗マラリア薬であるクロロキンが、新型コロナウイルスに有効性を示したとの発表が中国政府から有りました。
ロピナビル/リトナビル配合剤(カレトラ)
抗HIV薬として「カレトラ」の商品名で米アッヴィから製造販売されています。
抗HIV薬作用はロピナビルが有するプロテアーゼ阻害(PI)作用によるもので、HIVウイルスが自身のプロテアーゼにより増殖に必要な複合タンパクを切断するプロセスを阻害し、増殖が阻害されます。
リトナビルも同じくプロテアーゼ阻害剤(PI)ですが、他のプロテアーゼ阻害剤の分解を抑制する働きがあり、ロピナビルとの併用効果が示されています。
下痢,嘔気,嘔吐,腹痛等の副作用が有りますが、重篤例は少なく、比較的安全な医薬品です。
同じコロナウイルス出るMERSへの有効性も示されており、COVID-19への効果も期待されています。
(2020/3/23 追記)
残念ながら、カレトラ治療を受けた群と受けなかった群の間に有意差はなかった、との結果がにNew England Journal of Medicineに掲載されました。残念です。。。
10日間程度
イベルメクチン
寄生虫感染症治療薬である「イベルメクチン」について、試験管内で新型コロナウイルスの増殖を48時間以内に阻止をしたというエビデンスデータが発表されました。
今後、ヒトに対する臨床試験が計画されるようです。
トシリズマブ
トシリズマブ「アクテムラ」は関節リウマチ治療薬であり、インターロイキン6の働きを抑える作用があります。
重症患者の症状を緩和するエビデンスが示され、世界各国で臨床試験が行われています。
重症肺炎時の炎症反応の暴走を抑える作用がると言われています。
ネルフィナビル、セファランチン(併用)
ネルフィナビルは抗HIV治療薬、セファランチンは植物アルカロイドで白血球減少症や脱毛症、マムシ咬傷に使用される薬剤です。
両剤は感染細胞から放出されるウイルスRNAを1日で最大0.01%以下にまで強く減少させ、その活性は現在治療薬候補となっているロピナビル、クロロキン、ファビピラビル(アビガン)よりも強いとの結果が示されました。
東京理科大学の研究で、ネルフィナビルとセファランチンの併用により、1日で感染細胞からのウイルスを検出限界以下に排除できることが確認されたとのことです。
その他の医薬品
免疫グロブリン製剤や抗体製剤の幾つかについて、臨床試験の計画があるようです。
既存の医薬品から効果があるものを探索することが、効率がよさそうですね。
一日も早い治療薬の開発が望まれますが、第一は感染しないこと、感染が広がらないような社会的な対応が重要です。
有効な治療薬が見つかったとしても、高齢者や併存疾患を有する方のリスクは変わりありませんので、ご留意ください。
内部リンク
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