新型コロナ感染症(COVID-19)が重症化し易い要因として、高齢や心肺疾患等の合併症などが言われます。
重症化したり、死亡に至った例を疫学的に調査したところ、圧倒的に男性が多いとの報告が有ります。

イタリアでの研究報告
前立腺がん患者に関する研究報告
イタリアで前立腺がん患者のCOVID-19重症化に関する研究報告が発表されています。
前立腺がんは男性ホルモン(テストステロン)の作用によって発生する「ホルモン依存性がん」と言われます。
その治療法として、男性ホルモンの作用を抑制するアンドロゲン遮断療法(ADT)が治療として行われます。
イタリア北部ベネト州の前立腺がん患者の調査では、ADTを実施した患者について、ADT未実施の患者に比べ、重症化率が大幅に低いとの結果が明らかとなりました。
ADT実施患者:5273人中感染者4人(0.075%)重症者1人(0.003%)
ADT未実施患者:37,161人中感染者144人(0.387%)重症者18人(0.048%)
ウイルス感染に重要な役割を持つ「TNPRSS2」という酵素が存在し、ウイルスが人の細胞表面に結合した後、細胞膜に侵入するのに利用されています。
男性ホルモンがこの酵素の働きに影響を与え、ウイルスの侵入を促進しているのではないかと考えられています。
女性ホルモンの影響の有無
逆に女性が男性よりもウイルスの抵抗性があるのではないかとの推論が有ります。
アイオワ大学によるマウスの実験で、SARS-CoV(SARSを発症するコロナウイルス)を感染させた雌雄のマウスについて、ヒトと同様にオスの死亡率が高かったとの結果が有ります。
しかし、メスから卵巣を取り出した場合、メスの死亡率の大幅な上昇が認められました。
即ち、卵巣由来の女性ホルモン(エストロゲン)がSARSからメスを守っているのではないか、ということが示唆されます。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とSARS-CoVは遺伝子構造が非常に類似しており、ヒトにおいてもホルモンが作用に何らかの影響を及ぼしている可能性が推察されます。
喫煙率の男女差は関係するのか?
男性の重症化率が高い要因として、飲酒や喫煙率が女性よりも高いことが関係しているのではないか、との推論も有ります。
例えば、中国では喫煙率の男女差が極めて高く、男性の喫煙率が約50%、女性は3%未満とのことです。
喫煙自体、COVID-19の重症化のリスク因子であることは既に知られています。
喫煙により肺の細胞が損傷を受けており、更に肺機能が低下し、酸素の供給ができなくなり人工呼吸器やECMOが必要なレベルに悪化します。
中国の研究では、新型コロナウイルス感染症の患者1,099人の中で集中治療を受けた人や死亡した人のうち、約26%が喫煙者であったことが判明しています。
喫煙は肺へのダメージのみならず、感染したものに触れた手から唇にウイルスが移行したり、ウイルスの付着したタバコを他の人へ貸し借りすることで感染が拡大することも考えられています。
しかし、イタリアの研究において、イタリアでの喫煙者の男女差がはるかに小さいにもかかわらず、感染者の男女差が男性喫煙者が28%、女性喫煙者が19%との結果であり、喫煙以外の要因、例えば、ホルモンの影響などが示唆されます。

